近江→王子様
舞子→双子のお姫様
剣持→魔法使い
翔子→双子のお姫様
それでは始まり始まり〜
昔昔あるところに池田近江というたいそうイケメンな王子様がおりましたとさ。
王子様は日々強くなるために修行ばかりしていて、ちっとも色恋沙汰には無頓着でした。
王様がせっかく舞踏会を開いても、近江王子は恋人を見つけようとしません。
とてもとってもモテるのですが、王子様はまだ恋を知らずにいました。
困ったのは王様です。もう17になるというのに、結婚どころか婚約者もいないありさま。
早く孫の顔が見たい王様は、森に住む魔法使いに相談しに生きました。
「おや、錦織さん。どうしました?王様のこすぷれ(←平仮名)似合いませんね。」
王様は口元をひくつかせながら言いました。
「台本読め剣持。話が進まんだろうが。」
魔法使いははいはいとやる気なさ気に言いました。
「えーと、近江君の結婚相手ですか。私は結婚相談所じゃ無いんですけどね〜仕方ありませんね。」
魔法使いは丸い水晶玉に向かってぶつぶつ呪文を唱え始めました。
「ん〜、ああ出ました。ここから東の果ての王国の、双子のお姫様の妹の方ですね。なかなか可愛いらしい、ポニーテールの女の子です。」
王様は喜びました。
「じゃあ、その妹姫を嫁にすればいいんだな!」
「はい。近江君を修行の旅と偽って旅に出させなさい。後は私がうまくやりましょう。」
魔法使いはニッコリと邪悪な笑みを浮かべて言いました。
一方、近江王子は背筋にぞ〜っと寒気を感じていました。
「何か嫌な予感がする…」
こういった感は、昔からよく当たっていたのでした。
そして今回も当たってしまったのです。
「近江。東の国にものすごく強い姫がいるときいた。手合わせして来い。」
「は?」
王子は目を丸くしました。
「名は舞子姫だ。歳はお前と同じだそうだ。」
「ちょ、ちょっと錦織さ…じゃなくて父上!いくら強いからってお姫様と手合わせなんてできませんよ!」
「あ〜心配すんな。東の国一番の武術の持ち主で、そのうえ気を操り、さらに器量もいいときてる。申し分ねぇだろが。」
「……拒否権は?」
「あるわけねぇだろ、あきらめろ。」
そして強制的に修行の旅と称したお見合いの旅は始まったのでした。
「なんで着いてくるんですか、剣持さん!」
「いやあ、近江君が途中で逃げないように見張れと言われましてねぇ」
嘘でした。本当はまたからかうネタが増えると思ったので着いて来たのです。
魔法使いは穏やかな外見に反してとても腹黒かったのです。
「やあ、見えて来ましたよ。あのお城です。」
たいそう立派な門をくぐると、綺麗なお城が見えて来ました。
「いよいよですね〜」
アハハと脳天気に笑う魔法使いにげんなりして近江王子はため息をつきました。
「たあ!!えい!!どうしたの、もう終わり?!」
舞子姫は、20人の兵士相手に中庭で手合わせをしていましたが、全員全く歯がたたず地面に伸びていました。
「舞ちゃん。そのくらいにしてあげなよ。」
優雅に木の下で日本書紀(←おい)翔子姫が諌めました。舞子姫は武術を極めるあまり手加減を知りません。どんな相手でも本気で相手をするので、死人←(おいおい…)
を出さないのが姉の翔子姫の役目でした。
「そろそろおやつにしましょう。今日は何がいいかしら。」
「今日はケーキがいいな〜!」
舞子姫はニコニコしながら言いました。
舞子姫はまだ色気より食い気のようです。
しかしそれが舞子姫のいいところでした。翔子姫はこの双子の妹が可愛くて可愛くて仕方ありません。だから妹に来た見合いや婚姻話を片っ端から断っていたのです。
(舞ちゃんは私が認めた人じゃないとね…。どこの馬の骨とも知れない王子のとこなんかにはやれないわ。)
心の中でうふふ…と邪悪に笑う翔子姫は実はかなりのシスコンでした。
二人がお城へ戻ろうとしたとき、侍女がやって来ました。
「舞子姫様。お見合いのお相手の近江王子様が参られましたわ。」
「お見合い?」
「はい。つきましてはおやつをご一緒にとのことですわ。」
「え〜!!本当?!翔ちゃんじゃなくて?!私にお見合いなんて始めてだ〜」
きゃっきゃっとはしゃぐ舞子姫を尻目に、翔子姫は怒りに燃えていました。
(見合い話…?私聞いてないわ……は!きっとおばあちゃんね…!)
食えない双子の姫の祖母千景が、きっと画策したに違いありません。
翔子姫は絶対に邪魔してやると心の中で誓いました。
「剣持さん…俺嫌な予感がするんですが。」
待合室でまた悪寒に襲われ、近江王子は背筋を震わせました。
付き人のくせに優雅に出された振る舞い酒を飲んでいた魔法使いは、のほほんとこうのたまいました。
「大丈夫ですよ。多分。」
近江王子は、本気で祖国へ逃げ帰りたくなりました。
続く