夢
渡橋ないあ
あなたは誰?
僕は夢を見ていたはずなのに
ここは何もない・・・くらい場所
そして何もない空間に不意に現れたものは
・・・あなたは誰?
僕と同じ言葉を繰り返す
あなたは誰なの?
懐かしさにも似た感情。それを抱かせるあなたは・・・?
・・・わたしはあなたの・・・母・・・傷ついたあなたの心を癒す存在・・・
それは僕の期待していた言葉を紡ぐ
僕の知らない・・・でも知っているぬくもり
記憶にはなくても体が覚えている・・・
母の腕の中で眠った幸せ
その健やかなる暖かさ、癒しの思い
記憶のない、だが確実に覚えているその幸福がなぜ僕に?
僕はもう血塗られた存在なのに
仕方なかったとはいえ、僕は・・・人の命を殺めたというのに・・・
でも、ほんとうに仕方がなかったのだろうか
本当に、あの人は死んだほうがよかったのだろうか
ほんとうに・…僕は殺さなければならなかったのだろうか
そんな僕にどうして幸せが訪れるのだろう
苦しみの中で死んでいった相手
僕はそれに手をかけた存在
僕は・・・・・・死神
人を殺した僕に幸せになる資格なんてない。
・・・いいえ・・・あなたは幸せに・・・なれる・・・
なぜそれが言えるの?僕は人の人生を終わらせてしまったというのに
・・・あなたを・・・幸せに・・・してあげる・・・
大きなやさしさが僕を包む
もしかしたら僕は幸せになれるのかもしれない
この優しさに身をゆだねたのなら
・・・そう・・・ここで・・・永遠に幸せに・・・
あなたは僕のお母さんなの?幼い頃に死んでしまった僕の・・・
・・・わたしはあなたの母・・・傷ついたあなたを癒す存在・・・
お母さん
僕を優しく包んでくれる・・・暖かい存在
・・・ここにいれば・・・あなたは幸せになれる・・・
このままずっとここにいたら幸せになれるのなら
僕はここにいたい
一度はあきらめた幸せ
それが手にはいるなら・・・
どこかで声が聞こえる・・・
僕はその声に耳を傾けたほうがいいんだろうか
・・・いいえ・・・このままずっと・・・ここに・・・
暖かなぬくもりはそう僕を制す
ここにいたほうが幸せなら、ここにいる
人を殺めた僕が幸せになれる唯一の方法だというのなら
また、声が聞こえた
僕を呼ぶ声・・・聞こえる
・・・行かないで・・・あなたはここで・・・幸せに・・・
少しだけ悲しそうな叫び
もう誰かを悲しませるのはたくさんだ
僕は多くの涙を流させた
もうこれ以上涙を見たくない・・・
・・・そう・・・行かないで・・・
でも
僕を呼ぶ声が聞こえる
その声は懐かしい声
でも・・・僕の知らない声
あなたは誰?
・・・行かないで・・・
消え入りそうなぬくもり
手放したくはない
だが声は僕を呼びつづける
どうして僕を呼ぶのだろう
僕はもうここにいたいのに
―――だが、このままでいいのか?
不意に声が強くなった
このままで?
―――ここはお前の幸せの場ではない
でも、僕はいまぬくもりに抱かれて幸せだ
このまま、ここにいたい・・・
―――自分の幸せは自分でつかめ
そうできるほど僕は強くない
僕は人を殺めた
でも・・・僕は人の生き死にを左右するほど偉くない
―――それはお前の宿命
僕は普通でいたい
―――お前の力を使え
その力のせいで僕は「普通」ではいられない
・・・ここならば・・・普通でいられる・・・
ぬくもりは僕を暖かく包む
ここでは僕は普通でいられる
ならば・・・ここにいたい
―――お前の力はわたしのもの
あなたは誰なの?
なぜ僕にそんなことを言うの?
―――わたしはお前の祖。お前の魂
僕の魂?
・・・耳を・・・傾けないで・・・
ぬくもりはいっそう僕を包み込んだ
放さないとでもいうかのように
なぜ?僕はここにいたいんだよ
―――ここはお前のいるべき場ではない
でも、ここなら僕は普通でいられる
僕は普通でいたいんだ
―――お前の力はお前の宿命
僕はそんなに強くない
僕はそんなに偉くない
僕はそんなに・・・
なのになぜ僕にそんな重い宿命が?
―――お前はわたし。お前の力はわたしの力
そのせいで苦しめられる
それでも僕はここから出なければならないの?
とてもつらいのに
―――己が宿命を受け入れよ
でも・・・
―――目を・・・覚ませ!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!
気がつくと、ぬくもりは消えていた
あれほど心地よかったのに
なぜかなくなっても寂しいとは思わない
―――あれはお前を喰らうもの
ぼくを?
―――お前を喰らい、生きるもの
僕を食べて?
―――お前の望み、願いを喰らい世界に在る存在
僕は人殺めた
人の一生を終わらせた
それも直接でなしに
そんな僕を食して生きていくというのなら
僕はそれに身を任せよう
僕はそうやって消えてもしょうがないと思ってる
僕は・・・人を殺した。
―――それがお前の力。お前の宿命
―――人の命を奪ったのなら
―――その者の分まで生きよ
どうして・・・
僕はもう生きていなくてもいいのに
生きていたらまた人を不幸にしてしまうかもしれないのに
―――お前の宿命を受け入れよ
受け入れたくない
僕はもう・・・幸せになんかなる資格なんてないのに
生きていたくないのに・・・
―――お前は生きよ。お前はわたし
あなたは誰なの?
どうして僕を生きようとさせるの?
―――わたしはお前の祖。お前の魂
―――わたしは・・・・安部晴明
アベノ・・・セイメイ・・・?
―――お前は生きよ。殺めたものの分まで生き、その者の生を全うせよ
殺した分の人まで生きなければならないの?
なぜ・・・僕はそんなにいたくない
―――それが殺めた者の、お前の宿命
―――殺めた者の人生、お前が背負いて生きろ
殺した人が生きるはずだった時間を僕に生きろと?
―――強く願えば必ず叶う
―――幸せを願え
幸せを願うの?
人を殺してしまった僕にそんな資格はない
―――殺めた者の分まで、背負え
殺してしまった人の分まで幸せになれと
そう言うのかい?
―――そうだ。そうしてわたしは生きた
―――お前も生きよ
それきり声は聞こえなくなった。
気がついたら僕の目の前には天井が見えていて
朝が来たようだった
僕の魂は
殺してしまった人の分まで生きた
だから
僕は・・・わたしは
同じように そうして生きなければならない
生きるからには幸せに
そして・・・わたしは人を殺めてゆくのだろう
外法師達を・・・
それがわたしの宿命なのだから