記憶の底にあるもの

美神龍気


 

「・・・を・・・覚えて・・・」

浅い眠りに漂っている意識に向けて、語りかけてくる声がある。

(・・・誰だ?)

耳をすます。どうやら語りかけてくるというよりも、宣言するように、声は何かを自分に命じているようだ。

「・・・・男の名を・・・・・おけ・・・・」

(何だ?何を覚えておけって?)

訝しみ、声の命じる内容を聞き取ろうとするが、自分のいる空間全てが濃密な霧で出来ているかのようにねっとりと淀んでいて不快な反響が不協和音となっている。

声は、本当にそれを自分に聞かせたいのか、それとも自分が聞くことを無意識に拒んでいるから聞こえないのか。

(これは、夢だから)

自分が眠っていて夢を見ているということは自覚していた。そして今頃自分はうなされているのだろうとも。

「・・・・・・覚えておけ・・・」

声は繰り返す。

聞きたくないんだろう、自分は本当は。

だから未だにはっきり聞こえない。

(何を・・・俺に何を覚えておけというんだ?!)

叫んだつもりだった。

実際に音声としては響かなかったが、声はその問いに応えた。

うおん、とボリュームを急に大きくしたように声がその言葉を述べた。

「お前が倒した男の名を・・・覚えておけ」

「私の名は・・・」