りん |
甘くて切ない、彼の匂い。 それに初めて気づいたのは奈良の高校の旧校舎で組み合ったとき。 (香水かな…?) 初めはそう思った。 あたしを虜にするあの匂い…なんだろう…。 あたしはその正体がわからぬまま月日を過ごした。 三次での闘いであたし達は白い牢獄…閉鎖された空間に閉じ込められた。 「まあ、なんとかなるって。」 あたしがそう言うと彼は苦笑いしながら小さくため息をつく。 (あっ…この匂い…。) また彼からいつもの甘い匂いがした。閉ざされた空間だからかな、いつもよりそれは強く感じられた。 「ね、近江君。香水つけてる?」 彼はあたしの質問に目を丸くしながら答える。 「いや、つけてないけど…なんでだ?」 「だって近江君すごいいい匂いするんだもん。」 あたしは素直にそう答えた。 「匂い?」 「うん。甘くていい匂い。」 彼は自分の身体の匂いを嗅ぐ仕草をするが、しばらくして首をかしげた。 「わかんねーな。それはいい匂いなのか?まさか汗臭いとか…。」 彼の言葉に思わず笑う。 「いい匂いだよ、甘くていい匂い。ふふふ。」 「ふうん。」 結局甘い匂いが何なのかわからない。でもあたしにはすごくいい匂い。 あたしは彼の匂いにうっとりしながら目を閉じる。 不思議だね、近江君のその匂いはあたしを心地よく癒してくれる。 あたしはその魅惑の匂いがなんて呼ばれるものなのかまだ知らない。 (終) |