運命

りん


俺はずっと冷たい心だけを抱えて生きていかなくてはいけないんだと自分に言い聞かせてきた。
妾の子だと親戚から蔑まれ、実父にも心許せず、それでも母を悲しませる事だけはしないように努めてきたつもりだった。
その母も消息のわからなくなった兄を思い心を病んでしまった。
何を恨もう、自身のおかれた運命を恨んだこともあった。

実父の葬式をすっぽかし学校へ行った俺はあいつと出会った。
あいつは俺がどんなに警告しても笑顔で俺のテリトリーに入ってくる。
初めは鈍い奴だと思ったが放つ気は凄まじく武道にも長けている。
政府の依頼で呪術を封じるために動いていると言ったあいつは、母を悲しませ苦しめていた一族とそれに荷担する兄との対決の場面で俺の大きな支えになってくれた。

あれだけ探した兄との勝負は冷静さを欠いた俺の完敗。心身ともに打ち負かされた時あいつは俺のもとへやって来た。

「だって池田くん、バイクに乗ってから一言も口きいてくれなかったから…。」
素直な目で俺を見たあいつは本当に心配してくれているのが分かった。
何故だか心が温かくなり不覚にも涙を流してしまった。

俺は何をしているんだ、今の俺に必要なのは冷たい心だ。

あいつの温かさを振り払うように修行に出た俺は因縁を晴らすために飛騨へ向かった。

そこで俺は目を疑った。倒すべき一族とあいつが闘っている…偶然に驚きながら危険を犯し助けに入った。そして共闘し、目的を果たすことができた。

その後、剣持さんのところで世話になりながら俺も内調の依頼であいつと行動を共にすることが増えた。

ある時敵の幻影であいつは俺が死んだと思いあわてて駆けつけてくれた。
こんな仕事をしていていつ死んでもいいと思っていた俺の為にあいつは泣いてくれた…正直、嬉しかった。

もともと人に心を開くのを苦手とする俺も、あいつといることで暖かい日の光が差し込んでくるように感じる。

なぜだろう、冷たい心だけの時よりも今の方が強くなった気がする。
あいつを守りたいと思う気持ちがそうさせるのか…。

「近江君〜!こっちこっち〜!早くしないと限定ケーキ売り切れちゃうよ〜!」

笑顔で手を振るあいつを見ているとこうやってあいつといるのも運命な気がする。
俺に与えられた運命…悪くないと思える自分に驚きながら、あいつに温められたこの心を大切にしていこうと思った。

(終)