童話シリーズ 『かぐや姫』

りん


昔々あるところに竹取りの近江と呼ばれる男が住んでいました。彼は妻の舞子と住んでいましたが奥手の二人はいつまでも子供を作ることができませんでした。

ある日近江は竹藪の中に光る竹を見つけました。不思議に思い割ってみるとそこには美しい女の子がおりました。

近江は女の子を連れ帰り舞子と共に育てました。

翔子姫と名付けられた女の子は美しく成長しました。その美しさは有名になり都から何人もの殿方が求婚しに来ました。

都で有名な陰陽師、剣持殿は言いました。

「翔子姫、貴女の為にどんな呪詛でも返して差し上げましょう。」

翔子姫は言いました。

「私は誰かに恨まれる覚えはございません。結構です。」

剣持殿は求婚を断られました。

宿儺家の嫡子洋江殿は言いました。

「梨果の鬼礫で召喚した龍の涙を献上しよう。」

翔子姫は言いました。

「なんの咎もない龍を泣かすなんて、酷すぎます。」

洋江殿は求婚を断られました。

瀬戸内の豪族、鳴海殿は言いました。

「あはは、翔子さん。愛してるよ。」

翔子姫は言いました。

「そのような軽口、騙されません。」

鳴海殿は求婚を断られました。

白頭巾の爽やかな殿方、白妙殿は言いました。

「君が困っていたらどこにいても駆けつける。」

翔子姫は言いました。

「それよりも身体を治してください。」

白妙殿は求婚を断られました。

どの殿方の求婚にも応じない翔子姫を近江と舞子は心配していました。

満月が近づいたある夜、翔子姫は涙ながらに二人に打ち明けました。

「近江君、舞ちゃん。実は私は月からやって来たのです。」

普段冷静沈着な翔子姫のエキセントリックな発言に2人は言葉を失いました。
翔子姫は続けます。

「お2人には感謝の気持ちとして不老長寿の薬を差し上げましょう。」

そう言って翔子姫はひとつの箱を取り出しました。
中には東北で獲れた人魚が入っておりました。

「ツミィ、ツミィ…」

呆然とする2人に翔子姫は構わず続けました。

「私は今夜月に帰ります。」

翔子姫が庭に出るとそこには月からの使者が待っていました。

翔子姫は用意された牛車に乗り込むと颯爽と月に帰ってしまいました。
あとに残された近江と舞子は翔子姫の残した人魚の箱をもて余しながら月を見上げていました。

「ツミィ、ツミィ。」

箱の中の人魚はいつまでも鳴き続け、その鳴き声は夜の闇に吸い込まれていきました。

その後2人はいつまでも仲良く組手をしながら暮らしました。
風の噂では人魚の肉を食べたとか食べなかったとか…。

(おしまい)