昼下がりの縁側に二人並んでお茶をすする。二人の間には小さい盆とその上には色とりどりのあられの入った小さい菓子鉢。 二人の視線の先では一組のの男女が手合わせに汗を流していた。 「最近、さらに息が合ってきたみたいですね。手合わせというより演武という感じじゃないですか。」 長髪の男が言いながら小さなあられを口に運ぶ。 「本当に。流れるような動きですね。」 ボブカットの娘が答えながらこちらもあられを口に運ぶ。 二人向き合うことはなく、同じ方向を見つめて穏やかに話は続く。話題は次から次へとそれこそ流れるかのように移ってゆき、そして菓子鉢のあられは少しずつ少しずつ減っていく。 ふっ、と菓子鉢の中で二人の指先が触れた。それとも触れたと思ったのは錯覚か。男はまったく気付かぬ様子で3粒ほどのあられをさらって自分の掌に乗せた。娘は触れたと思った男の指に視線をやったまま動けずにいた。男の指につままれたピンク色の一粒が、自分の爪を薄く染めるピンク色を連想させ少しだけ息をつめた。初めてマニキュアを塗った自分の指がまだ菓子鉢の中で忘れ去られているのにも気付かない。その上、言葉が途切れたことにも気付いていない。 「翔子さん、はい、口をあけて。」 男が言った。 「えっ?」 翔子は我にかえって答えながら剣持を見返した。声を発して少し開いた唇に何か小さな硬いものが押し込まれた。押し込んだ長い指はほんの少しだけ、翔子の唇に触れていった。触れられた場所が熱を持つ。 「狙っていたんでしょう?最後の桜海老味。」 言われて初めて自分の口の中のものが桜海老味のあられだと気付く。欲しかったのは最後の一粒になった桜海老味のあられではないのだけれど、決してそうではないのだけれど今の二人には理由が必要。翔子は少し曖昧に笑って頷いた。もしかしたら、口の中のあられのように自分の頬も桜色になっているかもしれない。 剣持はただ柔らかい視線でそれを見る。 庭で「ふーっ」と息を吐く音がした。 「ああ、どうやら終わったようです。冷たいものでも用意してあげましょう。」 剣持は立ち上がって舞子と近江のための飲み物を用意しに台所へ向かった。 翔子はその後姿を見送ることはせず、顔を俯けさりげなくお茶をすする。舞子と近江に気付かれる前に頬の桜色が散ってくれればいいのだけれど。気付かれたらお茶が熱いのだと言えば良いかしら。言い訳を考えるその一方で翔子は思う。偶然を頼まずに、理由を探さずに触れ合える日はいつ来るのだろう。翔子はその日に思いを馳せながら口の中のあられを噛んだ。桜海老味のそれは塩が効いていて、でも少し甘かった。 |