奈良の一件の後

泰 

扇家の客間で
報告がてらに三時のお茶を啜りながら、剣持司は懐かしい家に記憶を刺激されていた
あの時、扇姉妹に対し初めましてと言ったものの、剣持は過去に扇姉妹に出会っていたのだった
そうアレは、ある事件で故郷をおわれ、扇家に一時保護されている時の事だった
その時は物心付いているかどうかも怪しい双子の姉妹に良く襲撃されていたのだ、
幼子とは思えぬ程の力を発揮する双子に、剣持は幾度か鼻血を流す羽目に為ったのは懐かしいが
それ以上に気に為るのは・・・
「そう言えば、舞子さんと翔子さん何だか・・・以前と違う気がするのですが・・・」
扇婆は御土産の栗羊羹から栗を取り除きながら
「違うとは?」
と逆に訊ね返してきた
「いえ、私の記憶違いかも知れませんが、翔子さんが活発な方で舞子さんが見える方でしたよね?」
・・・沈黙が降りた・・・
「朝子が、なあ・・・まあ、良いではないか双子なら良く有る事じゃて」
それは、入れ代っていると言う事を認めた・・・と言うことだろう
扇婆さんのらしからぬ遠い目に
剣持はそれで本当に良いんですか?と言う突っ込みを入れられなかった。