使

(桜海凪様寄稿)

奈良編で扇姉妹、剣持司、玄妙教前教え長は藤原鎌足の魂呼びをやりました。その時に唱えられた呪――

 天清浄、地清浄、内外清浄、六根清浄。

 寄り人は、今ぞ寄り来る長浜の、蘆毛の駒に、手綱揺り掛け。

・・・・・・というものがありました。これを見た時はきれいな咒だ、ことばだなーと、感心して永久保先生が考え出したのかな、と思ってもいたのですが先日、謡曲集を読んでいましたら同じ詞を見つけました(謡曲とは簡単にいえば、能の脚本みたいなもの)。読んでいたのは謡曲「葵上」でしてその中に登場する巫女の唱えていたものです。

 意味は「寄り人は、今こそ寄ってくるのだ。葦毛の駒に乗り、手綱をゆらゆらとさせて」

 「寄り人」は招き寄せられてやって来るものの意。

 「天清浄地清浄、内外清浄六根清浄」(六根・・・眼、鼻、舌、身、意の六つの感官の総称)は巫女――この場合いわゆる霊媒――が口寄せのはじめに唱える清めの言葉で、それ以降のは霊魂を呼び寄せるために必要な呪歌であったようです。

 謡曲では梓(あずさ)巫女が唱えていた呪でありましたが別に梓巫女に限らず、依巫(よりまし)なら用いていたのかもしれません。ちなみに梓巫女とは梓弓の弦を弾いて生霊、死霊を呼び寄せる霊媒のことをさします。そのことを「梓に掛ける」といったとか。平安時代に魔除けのために滝口の武士が弓の弦を鳴らした、という話を思い浮かべると興味深いのですが、話が少し逸れますのでここでは触れません。

 『先代旧事本紀六十三・咒歌(神託ノ歌)』に見えるようで初句は「ヨリカミハ」となっています。

 『鴉鷺(あろ)物語・九』や天理本鼠の草子などにもみえるそうです。『鴉鷺物語』を当たって見ますと確かにありました。内容は長いし、理解できたとは到底言えないので省きますね(どうも様々な鳥を擬人化させて鳥たちの争いというか、合戦を書いたものらしい?詳しく訊かないで下さい<笑>)。

 ともかく上記の呪歌および剣持さんが最後に締め括ったのと同じ「只今寄せ来る所の亡者の命路(よみぢ)語り、まさしく聞かせ給へ」という句が載っていました。おそらく先生はここから取ったのではないでしょうか。

 。「粋だ、永久保先生」と思いました(笑)。扇姉妹や剣持さん、教え長がすこぶる息の合った魂呼びをする場面は実にかっこよかったものです。

 参考文献は以下のものを用いましたが、ちょっと出版社名や正確な本の題を忘れてしまったものがあるのではっきりと明記は出来ません。あいまいでまこと、すみませぬ(汗)。↑きちんと書きとめておけよ・・・・・・(致命的)。

『あずさ弓(上)』C・ブラッカー著 岩波書店

『室町物語集 上』(『鴉鷺物語』が載ってます。出版社はすみません、ど忘れ<汗>)

 あとは小学館の日本古典文学大系の謡曲集を参考にしました。